相続人申告登記とは ─ 「まだ話がまとまらない」ときの新しい制度

■ はじめに

相続登記が義務化されて、
「3年以内に登記しなきゃいけない」と
聞いたけれど──

「遺産分割の話し合いが、まだまとまらない」
「相続人が多くて、全員の合意が取れない」
「そもそも、誰が何を相続するか決まっていない」

そんな状況のとき、
どうすればいいのでしょうか。

実は、2024年4月1日から、
こうした場合に使える新しい制度が始まりました。

「相続人申告登記」といいます。

このページでは、
この新しい制度について、
わかりやすくまとめました。

■ 相続人申告登記って何?

ひとことで言うと、
「わたしはこの不動産の相続人のひとりです」と
法務局に届け出る手続きです。

通常の相続登記は、
「誰がこの不動産を取得するか」を確定させてから
名義を変更する手続きですが、

相続人申告登記は、
取得者が決まっていなくても、
「相続人であること」を届け出るだけでOKです。

この届出をしておけば、
相続登記の義務を果たしたことになります。

■ どんなときに使うの?

こんなケースで役に立ちます。

・遺産分割の話し合いが長引いている
・相続人の中に連絡が取れない人がいる
・相続人が大勢いて、まとめるのに時間がかかる
・まだ相続をどうするか考え中
・とりあえず期限内に義務を果たしておきたい

つまり、「正式な相続登記はまだできないけれど、
3年の期限が迫っている」というときの
"つなぎ"の手続きです。

■ 通常の相続登記との違い

通常の相続登記と相続人申告登記は、
まったく別の手続きです。

【通常の相続登記】
・不動産の名義を相続人に変更する
・遺産分割協議書や相続人全員の戸籍などが必要
・登録免許税がかかる(評価額の0.4%)
・完了すると、名義が新しい所有者に変わる

【相続人申告登記】
・「相続人です」と届け出るだけ
・届出をした人の戸籍など、最低限の書類でOK
・登録免許税は不要(非課税)
・名義は変わらない(亡くなった方のまま)

大きな違いは、
相続人申告登記では
不動産の名義が変わらないということです。

登記簿には、
「この人が相続人として届け出ました」
という記録が付記されるだけです。

■ 手続きに必要なもの

相続人申告登記に必要な書類は、
通常の相続登記よりもずっと少なくて済みます。

【必要な書類】
・申出書(法務局の書式)
・亡くなった方の死亡がわかる戸籍謄本
 (または除籍謄本)
・届出をする方の戸籍謄本
 (亡くなった方との関係がわかるもの)
・届出をする方の住所を証明する書面
 (住民票など)

ポイントは、
「出生から死亡までの戸籍をすべて集める」
必要がないことです。

通常の相続登記では、
亡くなった方の一生分の戸籍を
すべて集める必要がありますが、
相続人申告登記は、
亡くなったことがわかる戸籍と、
自分が相続人であることがわかる戸籍だけで
申出ができます。

■ 相続人ひとりでもできる

もうひとつ大きな特徴があります。

相続人申告登記は、
相続人がおひとりで申出できます。

他の相続人全員の同意は不要です。
他の相続人の戸籍も集める必要がありません。

「自分だけ先に届け出ておこう」
ということができるのです。

逆に言えば、届出をしていない相続人は、
義務を果たしたことにはなりません。
届出の効果は、届け出た本人にだけ及びます。

■ 注意しておきたいこと

相続人申告登記は便利な制度ですが、
いくつか大切な注意点があります。

【これは「仮の措置」です】
あくまで義務を果たすための
暫定的な手続きです。
遺産分割がまとまったら、
あらためて正式な相続登記が必要です。

【遺産分割後の期限】
遺産分割が成立した日から3年以内に、
正式な相続登記を申請しなければなりません。

【売却や担保設定はできません】
相続人申告登記をしただけでは、
不動産の名義は変わりません。
そのため、不動産を売却したり、
住宅ローンの担保に入れたりすることはできません。
これらの手続きには、
正式な相続登記が必要です。

【相続放棄を考えている場合】
相続放棄には、原則として
「相続を知った日から3か月以内」
という期限があります。
相続人申告登記をしたからといって、
相続を承認したことにはなりませんが、
相続放棄をお考えの場合は、
早めに司法書士にご相談ください。

■ 費用の目安

【実費】
・登録免許税:不要(非課税)
・戸籍謄本等の取得費用:数百円〜数千円程度

【司法書士報酬】
司法書士にご依頼いただく場合は、
別途報酬がかかります。

具体的な費用は、
不動産の状況や相続関係を確認のうえ、
お見積りいたします。

相続人申告登記は、通常の相続登記に比べて
必要書類も少なく、手続きもシンプルなため、
費用も抑えられることが多いです。

■ よくあるご質問

Q. 相続人申告登記は自分でもできますか?

はい、ご自身でも申出できます。
法務局のホームページに
書式や記載例が公開されています。
ただ、戸籍の取得や書類の準備に不安がある場合は、
司法書士にお任せいただくこともできます。

Q. 相続人全員が届出をしないとダメですか?

いいえ、届出は個人ごとです。
届出をした方だけが義務を果たしたことになります。
他の相続人にも届出を勧めることは大切ですが、
強制はできません。

Q. 届出をしたあと、遺産分割がまとまったら?

遺産分割が成立した日から3年以内に、
正式な相続登記を申請してください。
相続人申告登記は「つなぎ」の手続きですので、
最終的には正式な登記が必要です。

Q. 届出の期限はいつまでですか?

相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内、
または2024年4月1日より前に発生した相続の場合は
2027年3月31日までです。
(相続登記の義務化と同じ期限です)

Q. 複数の不動産がある場合は?

不動産ごとに届出が必要です。
ただし、同じ法務局の管轄であれば、
まとめて申出することができます。

■ おわりに

「話し合いがまとまらないから、何もできない」

そう思って動けなくなっている方に、
相続人申告登記は、
「まず一歩を踏み出す」ための制度です。

完璧じゃなくていい。
今できることをやっておく。

それだけで、
ペナルティの心配から解放されます。

「うちの場合は、
相続人申告登記をしたほうがいいのかな?」
「それとも、正式な相続登記ができそうかな?」

迷ったときは、どうぞご相談ください。
状況をお聞きして、
いちばん良い方法を一緒に考えます。

翔栄法務司法書士事務所
TEL:03-5452-0885