📚️『極楽征夷大将軍』── できないから、頼る。

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『極楽征夷大将軍』
垣根涼介(新潮社)
── やる気のない将軍が、時代を動かす物語。
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できないから、頼る。
垣根涼介さんの『極楽征夷大将軍』をAudibleで聴き終えた。足利尊氏の話である。
室町幕府を開いた人、というくらいの知識しかなかったので、きっと豪快で頭が切れて、部下をぐいぐい引っ張っていくような人だったのだろうと勝手に思っていた。ところが聴き始めてすぐ、「あれ?」となった。
この尊氏、驚くほどやる気がない。
野心がない。執着もない。戦はそこそこ強いらしいのだけれど、政治のことになるとさっぱりで、本人もそれを気にしている様子がない。普通なら少しは焦りそうなものだが、「まあ弟がやってくれるし」という感じで、実にのんびりしている。
その弟の直義はまた、兄とは正反対の人で、切れ者で実務家で、きちんと理屈を通す人だった。尊氏はこの弟のことを心底頼りにしていて、それが打算とか演出ではなく、ただ純粋に「自分にはできないから、できる人に頼る」というだけのことなのである。見ていて清々しいほどに、てらいがない。
面白いのは、この「自分が、自分が」という欲のなさが、結果として人を集めてしまうところだ。尊氏のまわりには、なぜか放っておけないと感じた人たちが自然と寄ってきて、力を貸してくれる。本人が人望を得ようとして動いたわけではないのに、気がつけば一つの時代が動いていた。なんとも不思議な話である。
聴きながら、ふと自分の仕事のことを考えた。
日々、組織というものの形をたくさん目にする。うまくいっている会社には、決まって優秀な参謀がいる。社長を支えて、社長にはできないことを黙って引き受けている人。その存在がどれだけ大きいか、この物語を聴いて、あらためて「組織の土台」としての人の存在について思った。
尊氏と直義の関係は、物語の後半、悲しい方向に進んでいく。聴いていて胸が痛くなる場面もあった。けれど、二人が互いを必要としていたことは揺るぎのないものだった。完璧な人、懸命な人だからひとりで何もかも成し遂げるわけでもない。信頼しあって、補い合って、一時代を築けるほどの形にもなる。そういうものなのかもしれない。
もうひとつ、印象に残ったことがある。
尊氏のあの楽観的な性格は、鈍いのとは違うと思った。自分に何ができて、何ができないか、それを静かにわかっている人だけが持てる、ある種のおおらかさだった気がする。自分の限界を認めるのは、口で言うほど簡単ではない。でも尊氏には、そこに抵抗というものがなかった。だからこそ周りの人が、それぞれの持ち場で気持ちよく力を発揮できたのだろう。
全部を自分でやらなくてもいい。頼ることは、弱さではないのだ。
六百年以上も前の、どこか飄々とした将軍を羨ましく思った。不思議なものである。

そう思うと、それぞれの企業のなりたちにも興味が湧いてきた。
【カテゴリ】 ふみチュウの本だな
【タグ】 歴史 組織・経営 オーディブル

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