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『ツーリスト・ファミリー』
2024年/インド映画
── 居場所のない家族が、街の空気を変えてしまう話。
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応援される人の、たったひとつの条件。
インド映画『ツーリスト・ファミリー』を観た。
内戦と経済破綻に苦しむスリランカから、命がけでインドに密入国してきた家族の物語である。「密入国」と聞くと重たい話を想像するかもしれないけれど、この映画はくすっと笑えて、最後にはじんわり温かい気持ちになる、なんとも不思議な一本だった。
この家族がたどり着いた街は、もともと住民同士のつながりが薄い、どこかそっけない場所だった。ところが、この家族が暮らし始めると、少しずつ街の空気が変わっていく。
なぜか。
理由はとてもシンプルで、この家族が誰に対してもとにかく優しいのだ。素朴で、平凡で、決して余裕があるわけではないのに、困っている人がいれば自然と手を差し伸べる。それが計算でも演出でもなく、ただこの人たちがそういう人たちだからそうしている、というだけのこと。見ていて気持ちがいい。
すると、最初は距離を置いていた地域の人たちが、だんだんとこの家族を放っておけなくなってくる。法的には「いてはいけない」存在なのに、みんなが「この人たちを守りたい」と思い始める。そしていつの間にか、バラバラだった街が、ひとつになっていく。
この映画がすごいのは、そのメッセージを押し付けてこないところだ。「異文化を受け入れましょう」とか「優しくしましょう」とか、そういう説教は一切ない。ただ、この家族の日常を見せているだけ。それだけで、観ている側が勝手に心を動かされてしまう。
観ながら、先日聴いた足利尊氏の話を思い出した。尊氏もまた、人を動かそうとしたわけではなく、ただ自分に素直だっただけで、いつの間にか周りが動いていた。この映画の家族もまったく同じだ。「応援されよう」としたのではない。ただ、目の前の人に優しかっただけなのだ。
応援される人になるにはどうすればいいか。この映画の答えは、拍子抜けするほどシンプルだった。まず自分が、人に優しくする。それだけ。あたりまえすぎて、つい忘れてしまうことだけれど、やはりこれに尽きるのだと思う。
新人監督によるスター不在の低予算作品が、口コミだけでインド中に広がったというのも、なんだかこの映画の内容そのものみたいで微笑ましい。優しさは伝染する。そのことを、スクリーンの中でも外でも証明してみせた、素敵な映画だった。
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【タグ】 映画 インド映画 家族 生き方
