「法人化して後悔した」──長年、多くの経営者とお付き合いしてきた中で、そんなお話を聞くことがあります。
ただ、よくよくお話を聞いてみると、後悔の多くは、「知らなかった」から始まっています。
法人化の手続き自体は、それほど難しいものではありません。でも、スタートの時点で知っているかどうかで、その後の安心感がまったく違います。
この記事では、法人化を検討している方に「これだけは知っておいてほしい」と思うことを5つにまとめました。知っておけば、不安なく前に進めることばかりです。
1. お金のこと──設立後にかかる費用を把握しておく
設立費用の先にある「会社としての費用」
会社をつくるには、登録免許税や定款認証の費用がかかります。株式会社なら最低でも20万円前後、合同会社でも6万円ほどです。
ここまでは調べている方も多いのですが、意外と見落とされがちなのが、設立した後にかかる費用です。
会社の決算には手間と費用がかかる
個人事業の場合は確定申告のみで、ご自身でできていた方も多いと思います。しかし法人化すると、会社としての決算と申告が必要になります。
税理士に毎月の顧問を頼むことが必須というわけではありません。ただ、会社の決算は必ずありますので、決算だけでも税理士にお願いする会社は多いです。そのための管理と費用がかかることは、あらかじめ知っておいてください。
利益が出ていなくても税金はかかる
もうひとつ知っておいていただきたいのが、法人住民税の均等割です。会社が赤字であっても、年間で最低約7万円の税金がかかります。個人事業主にはなかった出費です。
<知っておいてほしいこと>
設立費用だけでなく、法人化した後にかかる費用をざっくりでも把握しておくと、安心してスタートを切れます。「どのくらいの売上になったら法人化した方がいいか」という判断にも役立ちます。
2. 手続きのこと──会社を持つと必要になる手続きがある
役員の任期は必ずやってくる
株式会社の場合、役員(取締役)には任期があります。最長10年まで伸ばせますが、任期が来たらたとえ同じ人が続けるとしても、法務局で「重任」の登記手続きが必要です。
登記を忘れたまま放置していると、法務局から「この会社は活動していないのでは」と判断され、「みなし解散」の対象になることがあります。自分の会社の役員任期がいつ満了するかは、必ず把握しておいてください。
決算と税務申告は毎年の義務
1つめの「お金のこと」でもお伝えしましたが、法人は毎年の決算と税務申告が必要です。株式会社の場合は、決算内容の公告も義務づけられています。
小さな会社であっても、法律上の義務は同じです。
定款の変更にも手続きが必要
事業目的を追加したい、本店を移転したい、役員を変更したい──こうした変更があるたびに、株主総会の決議や議事録の作成、法務局への変更登記が必要になります。
<知っておいてほしいこと>
「会社を持つ」ということは、こうした手続きがずっとついてまわるということです。面倒に感じるかもしれませんが、逆に言えば最初にきちんと把握しておけば、慌てることはありません。
3. 住所のこと──本店所在地は意外と大事
マンション名や部屋番号を入れておく
自宅で起業する方も多いのですが、マンションにお住まいの場合、登記の際にマンション名や部屋番号を入れないことがあります。登記上は番地までで問題ないのですが、実際には税務署や法務局からの重要な書類が届かなくなることがあります。
届かないまま放置していると、思わぬ不利益につながることもありますので、書類がきちんと届く住所で登記しておくことをおすすめします。
移転するときの費用も頭に入れておく
「まずは自宅で始めて、軌道に乗ったら事務所を借りよう」という計画の方もいらっしゃると思います。それ自体はとても良い進め方です。
ただ、本店を移転するときに管轄(区や市)が変わると、同じ管轄内の移転に比べて登録免許税が倍かかります。同じ管轄内なら3万円のところ、管轄が変わると6万円です。
<知っておいてほしいこと>
将来の移転の可能性がある場合は、その分の費用を頭に入れておけば大丈夫です。設立時の住所選びで迷ったときは、お気軽にご相談ください。
4. 共同経営のこと──一緒に始めるなら最初のルール作りが大事
仲が良いからこそ決めておくこと
友人や知人と一緒に会社を始めるケースはよくあります。同じ志を持った仲間との起業は心強いものです。
ただ、ひとつだけ気をつけていただきたいことがあります。出資の割合を50:50にしないことです。
出資が半々だと、ふたりの意見が分かれたときに多数決でも何も決められなくなります。事業がうまくいっても、うまくいかなくても、意見の違いは必ず出てきます。そのときに会社として何も決議できない状態になると、身動きが取れなくなってしまいます。
「うまくいかなかった場合」のルールこそ、うまくいっているうちに
出資割合のほかにも、役員が退任するときの取り決めや、意見が割れたときの決め方など、「もしうまくいかなくなったら」のルールを最初に決めておくことが大切です。
こうした話は、関係が良好なうちでないとなかなかできません。会社を始めるときの高揚感の中で「そんな話は水を差すようで…」と感じるかもしれませんが、むしろ仲の良い関係を守るためのルール作りだと考えてください。
<知っておいてほしいこと>
定款の作り方次第で、こうしたルールをきちんと盛り込むことができます。共同で会社を始める予定の方は、定款を作る段階でぜひ一度ご相談ください。
5. 将来の選択肢のこと──会社を閉じるにも手続きがある
始めるのは簡単、閉じるのには手間がかかる
少し先の話になりますが、知っておいていただきたいことがあります。
会社を閉じる(解散・清算する)ときには、株主総会の決議、法務局への登記、官報への公告、税務申告など、一連の手続きが必要です。最短でも2〜3ヶ月、費用も数万円〜十数万円かかります。
「うまくいかなかったらやめればいい」と気軽に考えている方もいますが、個人事業の廃業届のように簡単にはいきません。
放置してもなくならない
使わなくなった会社を放置しても、会社は消えません。登記簿には会社名も役員名もそのまま残り続けます。将来、新たに事業を始めるときや融資を受けるときに影響が出ることもあります。
<知っておいてほしいこと>
これは「だから法人化しない方がいい」という話ではありません。ただ、会社を持つということは「始め方」だけでなく「続け方」や「終わり方」にも手続きがあるということを、最初に知っておくと安心です。
まとめ──知っていれば、安心して踏み出せる
法人化は、事業を次のステージに進めるための大きな一歩です。
この記事でお伝えした5つのことは、法人化をやめた方がいいという話ではありません。知った上で進めれば、不安なく経営に集中できるということをお伝えしたかったのです。
- 設立後の費用を把握しておく
- 会社を持つことで必要になる手続きを理解しておく
- 住所の選び方と将来の移転費用を知っておく
- 共同経営なら最初にルールを決めておく
- 会社の「続け方」と「終わり方」も知っておく
どれも、設立前に専門家に相談しておけば安心できることばかりです。
法人化を検討中の方には、「今のタイミングで法人化すべきかどうか」から一緒に考えます。事業の状況やご希望をお聞きした上で、最適な会社の形態や進め方をご提案します。
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翔栄法務司法書士事務所 司法書士 山内扶美子
