📖『永い言い訳』 ─愛していた夫と、愛していなかった夫

山内扶美子
監修者 山内扶美子

Audibleで西川美和さんの『永い言い訳』を聴き終えました。

突然の事故で妻を亡くした、ふたりの夫の話です。

ひとりは小説家。衣笠幸夫という名前で、あの衣笠祥雄と同姓同名。それだけでずっと息苦しさを抱えて生きてきた人です。子供はなく、夫婦の関係はとうに冷え切っている。妻が亡くなったあと、携帯に残されていたのは「愛していない」というメッセージ。世間は悲しみに打ちひしがれた夫の姿を期待するけれど、その期待に応えられるほどの感情がない。むしろ妻の死を自分への報復のように受け止めてしまう。

小説家だから、書くことには正直です。でも正直であることと真実であることは違う。インタビューで、愛していなかった妻への本音がぽろりと出てしまう。愛していないという現実を言葉にしたら、こんなにも残酷になってしまうのかと思いました。妻のことを書こうとすれば、深く考えざるを得なくなる。気持ちに正直すぎて、周囲の期待する「悲しむ夫」にはなれなかった。

もうひとりは、幼い子どもふたりを抱えたトラック運転手の夫。こちらは妻を愛していた。愛していたから、失った悲しみに正直に崩れていく。家事もままならず、小説家の夫に子どもたちの世話を頼るようになる。

どちらの夫も、あまりに正直すぎて、聴いていて想像がつかなかった。この先どこに行き着くのだろうと思いました。

でも、永い時間が必要だったのです。

不器用な残された者同士が、残された子どもたちに支えられながら、少しずつ妻のこと、死のこと、自分自身のことと向き合っていく。その「永い言い訳」をちゃんと最後まで聞けて、納得しました。

家族、夫婦、親子。深く考えて、反省して、たどり着いたのは、──生きるとは、誰かのためにすることなのだということ。小説家の夫が、もう一人の夫の子供に、自分の後悔をしっかりと伝えて諭すことばは本物でした。

この物語は、そういう不器用な正直さをまるごと出して、それも素直に受け入れながらも深く考えさせられる一冊でした。

山内扶美子

執筆者
山内扶美子 / 司法書士

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