
成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。
名前は似ていますが、この2つは入口からまったく違う制度です。
いちばん大きな違いは、「誰が後見人を決めるか」です。
- 任意後見 ── ご本人が、元気なうちに「この人に任せたい」と自分で決める
- 法定後見 ── 判断する力が低下してから、家庭裁判所が後見人を決める
この違いを知っているだけで、どちらを選ぶべきかが見えてきます。まずは全体を表で見比べてみましょう。
目次
2つの制度を比べてみると
| 任意後見 | 法定後見 | |
|---|---|---|
| いつ準備するか | 元気なうちに | 判断する力が低下してから |
| 誰が後見人を決めるか | ご本人が自分で選ぶ | 家庭裁判所が選ぶ |
| 手続きの入口 | 公証役場で公正証書の契約 | 家庭裁判所への申立て |
| 効力の発生 | 判断する力が低下した後、 任意後見監督人が選任されてから | 審判が確定してから (申立てから2〜4か月程度) |
| 後見人の権限 | 契約で自由に設定できる | 法律で定められた範囲 |
| 始めるときの費用の目安 | 2万〜2万5,000円程度 (公正証書の作成費用) | 1万円前後 (申立ての実費) |
| こんな方に | 「自分のことは自分で 決めたい」方 | すでに認知症の症状がある方の ご家族 |
ポイントは、任意後見は「自分で決める」、法定後見は「裁判所が決める」ということです。
それでは、それぞれの制度を詳しく見ていきましょう。
任意後見──自分のことは、自分で決めておく
どんな制度か
任意後見は、ご本人がまだ元気で、ご自身の意思をしっかり伝えられるうちに、「将来、自分で判断するのが難しくなったら、この人に財産管理や手続きを任せたい」という契約を結んでおく制度です。
契約は公正証書で作成します。
いちばんのメリット──後見人を自分で選べる
任意後見の最大のメリットは、後見人を自分で選べることです。
信頼できるご家族を指定することもできますし、司法書士などの専門家を指定することもできます。「自分のことは自分で決めたい」という方にとって、いちばん納得のいく方法です。
契約だけでは始まらない──「保険」のような仕組み
任意後見契約は、結んだだけでは効力が発生しません。実際にご本人の判断する力が低下したときに、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てて、はじめて契約が動き出します。
つまり、「いざというとき」に備える保険のようなものです。元気なうちに準備しておいて、必要になったら発動する──そういう仕組みです。
代理権は「オーダーメイド」で決められる
任意後見契約のなかで代理権の内容を自由に設定できる点も見逃せません。たとえば、ご本人が銀行の窓口まで行けなくなった場合に、後見人が代理で手続きをすることができます。この代理権の設定は、後見が始まる前の契約の段階で盛り込んでおくものです。
「銀行の手続きは任せたい」「不動産のことも代わりにやってほしい」──。ご自身が必要とする内容を、相談しながら一つひとつ契約書に盛り込んでいくことができます。いわばオーダーメイドの備えです。
もっと使ってほしい制度です
正直に申し上げると、任意後見はまだまだ利用が少ない制度です。「まだ元気だから必要ない」と思っているうちに、いつの間にか契約できない状態になってしまう方を、私は何人も見てきました。
法定後見になってからでは、後見人を誰にするかは家庭裁判所が決めます。まったく知らない専門家が選任されることもあります。その不安を感じる方は少なくありません。
任意後見であれば、ご自身が知っている人、信頼できる人に頼めるという大きな安心があります。元気なうちだからこそできるこの準備を、ぜひ早い段階で検討していただきたいと思っています。
法定後見──すでに判断が難しくなっている場合
どんな制度か
法定後見は、すでに認知症などで判断する力が低下している方のために、家庭裁判所に申し立てて後見人を選んでもらう制度です。
ご本人ではなく、ご家族(配偶者、四親等内の親族など)が家庭裁判所に申立てをします。
3つの類型──申立てのときに決める
法定後見には、ご本人の状態に応じて3つの類型があります。
| 類型 | ご本人の状態 | 支援の内容 |
|---|---|---|
| 後見 | ご自身で判断することが ほとんどできない | 後見人が財産に関する法律行為を 広く代理します |
| 保佐 | ご自身で判断することが 難しい | 不動産の売買や借金などの重要な行為に 保佐人の同意が必要です |
| 補助 | ご自身での判断に 不安がある | あらかじめ定めた特定の行為について 補助人がサポートします |
どの類型で申し立てるかは、申立ての際に記載します。その判断材料となるのが、医師の診断書(家庭裁判所の指定する書式のもの)です。
「うちの親はどれに該当するの?」と迷われる方は多いですが、ここは無理にご自身で判断される必要はありません。診断書の内容をもとに、どの類型で申し立てるのが適切かは専門家がアドバイスできます。
なお、保佐と補助の申立てには、ご本人の同意が必要です。医師の診断が「後見相当」以外の場合は、ご本人が申立てに同意していることが前提になりますので、この点も含めて早めにご相談いただくことをおすすめします。
後見人は家庭裁判所が選ぶ
法定後見では、後見人を家庭裁判所が選任します。ご家族を候補者として申し立てることはできますが、必ずしもご家族が選ばれるとは限りません。
財産が一定額以上ある場合や、ご家族間に意見の対立がある場合などは、司法書士や弁護士などの専門家が後見人に選任されることがあります。
費用はどれくらいかかるのか
制度の利用を考えるとき、やはり気になるのは費用です。ここでは、一般的な目安をご紹介します(2026年7月時点の情報です)。
法定後見──申立てにかかる費用
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 |
| 後見登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 郵便切手(予納郵券) | 3,000〜5,000円程度 (家庭裁判所により異なります) |
| 医師の診断書料 | 数千円〜1万円程度 |
| 鑑定費用(実施された場合のみ) | 5万〜10万円程度 |
鑑定と聞くと身構えてしまう方もいらっしゃいますが、実際に鑑定が行われるのはごく一部の事案です。近年は診断書の内容で判断できるケースが大半で、多くの申立てでは鑑定は省略されています。実費としてはあわせて1万円前後と考えていただければ、大きくは外れません。
なお、司法書士に申立書類の作成を依頼する場合は、別途報酬がかかります。当事務所の報酬については、報酬等の目安をご覧ください。
法定後見──後見人への報酬(継続的にかかる費用)
司法書士などの専門家が後見人に選任された場合、ご本人の財産から報酬が支払われます。報酬額は家庭裁判所が決定しますが、東京家庭裁判所の公表している目安は次のとおりです。
| 管理する財産の額 | 報酬の目安(月額) |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 3万〜4万円 |
| 5,000万円超 | 5万〜6万円 |
ご家族が後見人になった場合は、報酬付与の申立てをせず、無報酬で務めているケースも少なくありません。
任意後見──契約時にかかる費用
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 公正証書作成の基本手数料 | 13,000円 (証書が3枚を超えると1枚ごとに300円加算) |
| 正本・謄本の交付手数料 | 数千円程度(枚数による) |
| 登記関係費用・郵送費 | 数千円程度 |
あわせて2万〜2万5,000円程度が目安です。
ひとつ、大切な補足があります。公正証書の作成手数料は、公証人手数料令の改正により2025年10月から13,000円に変わりました(それまでは11,000円でした)。古い情報のままのウェブサイトも見受けられますので、ご注意ください。
なお、見守り契約や財産管理契約、死後事務委任契約を同時に結ぶ場合は、契約ごとに手数料が加算されます。
任意後見──開始後にかかる費用
任意後見が始まると、家庭裁判所の選任する任意後見監督人への報酬が発生します。金額は家庭裁判所が財産額などに応じて決定し、月額1万〜3万円程度が一般的です。
任意後見人ご自身への報酬は、契約のなかで自由に取り決めることができます。ご家族に頼む場合は無報酬とすることも可能です。
※本ページの金額は2026年7月時点の一般的な目安です。事案により異なりますので、正確な費用はご相談の際にご案内いたします。
どちらを選べばいいか──状況別の目安
ご自身やご家族の状況に近いものを探してみてください。
| こんな状況なら | おすすめの制度 |
|---|---|
| 親がすでに認知症と診断されている | 法定後見 |
| 遺産分割協議をしたいが、相続人のなかに 判断する力が衰えた方がいる | 法定後見 |
| 親が高齢だが、まだ判断する力はしっかりしている | 任意後見 |
| おひとりさまで、将来の財産管理が心配 | 任意後見 |
| 判断する力があるうちに、不動産の管理・処分を 柔軟にできるようにしておきたい | 家族信託も検討 |
任意後見と法定後見のどちらか一方ではなく、遺言書や家族信託と組み合わせたほうがよい場合もあります。家族信託については、家族信託に期待している方へ、司法書士として思うこともあわせてお読みください。
「専門家に任せて大丈夫?」という不安について
後見人による財産の使い込みなど、残念なニュースを目にされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。「専門家に任せて本当に大丈夫なの?」と不安に思われるのは、もっともなことです。
この点について、司法書士の立場からお伝えしたいことがあります。
司法書士は、成年後見制度が始まって以来、親族以外の第三者後見人としていちばん多く家庭裁判所から選任されてきました。その実績の背景にあるのが、公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポートという団体です。
リーガルサポートは、司法書士が中心となって設立した団体で、後見人として活動する司法書士に対して厳格な研修制度と報告・監督の体制を整えています。所属する司法書士は、定期的に業務報告を行い、財産管理の内容についてチェックを受けます。
私自身も、このリーガルサポートの会員として活動しています。その監督と指導のもとで後見業務を行っていますので、安心してご相談いただければと思います。
どちらの制度が合っているか、迷ったら
「うちの場合はどちらがいいの?」──そのご相談がいちばん多いです。
ご本人の状態、ご家族の構成、財産の内容によって、最適な方法は異なります。まずは現在の状況をお聞かせください。30分の無料相談で、方向性をお伝えします。
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翔栄法務司法書士事務所 司法書士 山内扶美子
