
「父から『北海道と静岡に土地を買った』とは聞いていた。でも、どこに、どんな不動産なのか——資料は何も残っていない」。
相続の現場では、こうしたことが本当によく起こります。生前に場所の名前だけは耳にしていても、権利証も書類も見当たらないまま亡くなってしまい、ご家族が「一体どこを探せばよいのか」と途方に暮れてしまうのです。
2026年(令和8年)2月2日から、こうした「どこにあるか分からない不動産」を探すための新しい制度が始まりました。その名も「所有不動産記録証明制度」です。この記事では、制度のしくみと、使うときに気をつけたいことを、できるだけやさしくお伝えします。
目次
所有不動産記録証明制度とは?
所有不動産記録証明制度とは、ひとことで言えば「ある人が全国に持っている不動産を、法務局が一覧にして証明してくれる制度」です。発行される書面を「所有不動産記録証明書」といいます。根拠となるのは不動産登記法(第119条の2)で、2026年(令和8年)2月2日から全国の法務局で始まりました。
これまでは、亡くなった方がどこにどんな不動産を持っていたのかを調べるのは、とても骨の折れる作業でした。市区町村ごとに作られる「名寄帳(なよせちょう)」を、心当たりのある役所へ一つひとつ請求して回るしかなかったのです。名寄帳はその市区町村内の不動産しか載りませんので、隣の町の土地は別の役所へ——と、どうしても見落としが出やすい方法でした。
新しい制度では、1回の請求で全国の登記記録をまとめて検索できます。これは、相続の入り口にある「財産調査」という大きな山を、ぐっと低くしてくれる、待望のしくみといえます。

「該当する不動産が1つもありません」という場合でも、“ありません”ということ自体を証明してくれます。調べた結果をきちんと書面に残せるので、後々の安心につながるのですよ。
誰が使えるのですか?
とても便利な制度ですが、他人の財産を勝手にのぞけるわけではありません。プライバシーを守るため、請求できる方は次のように限られています。
● ご本人(所有権の登記名義人。個人でも法人でも可)
● 亡くなった方の相続人など(一般承継人)
● 上記の方から正式に委任を受けた代理人(司法書士などの専門家。委任状が必要です)
まったく関係のない第三者が、勝手に他人の不動産を調べることはできないしくみになっています。相続で使う場合は、亡くなった方(被相続人)の相続人であることを示す戸籍などの書類(または法定相続情報一覧図)を添えて請求します。
どこで・いくらで取れるのですか?
請求先は全国どこの法務局でも構いません。不動産の所在地を管轄する法務局まで出向く必要はなく、お近くの法務局のほか、オンラインや郵送でも請求できます。
手数料は、「検索する条件1つ・証明書1通」ごとの定額です(2026年2月時点)。
| 請求の方法 | 手数料(条件1つ・1通あたり) |
|---|---|
| 窓口・郵送での書面請求 | 1,600円 |
| オンライン請求(郵送で受取) | 1,500円 |
| オンライン請求(窓口で受取) | 1,470円 |
ここで、うれしいポイントがあります。料金がかかるのは「不動産の数」ではなく「検索する条件の数」です。1つの条件(たとえば「今の氏名+今の住所」)で調べれば、その条件に一致する全国の不動産がすべて1枚の証明書に載ります。ですから、不動産が1つでも、10個でも、あちこちに散らばっていても、1条件で足りるかぎり1,600円のままなのです。
● 例① 登記が今の住所のままの方
→ 条件は1つでOK。不動産が全国に何個あっても 1,600円(書面/1通)
● 例② 引っ越しをして、前の住所の登記も探したい方
→「今の住所」と「前の住所」で 2条件
→ 1,600円 × 2 = 3,200円
● 例③ 引っ越しに加えて、結婚で姓も変わった方
→「今の住所」「前の住所」に、旧姓の分も足して 3条件
・現在の氏名 + 今の住所
・現在の氏名 + 前の住所
・旧姓 + 前の住所(旧姓の時代に取得した不動産の分)
→ 1,600円 × 3 = 4,800円
つまり、費用がふくらむのは、引っ越しや結婚などで登記が古い住所・旧姓のままになっていて、過去の分もあわせて探したいときだけです。まずは今の氏名・住所で1通取ってみる、という使い方が、いちばん無駄がありません。
便利ですが、4つの「気をつけたいこと」があります
「申請すればすべてわかる魔法の杖」——と思ってしまうと、思わぬところでつまずくことがあります。実務の立場から、特に知っておいていただきたい4つの注意点をお伝えします。
検索されるのは、所有者として登記(権利部)がされている不動産だけです。建物があるのに所有権の登記がされていない未登記建物や、面積などの表示だけが登記されている不動産は、この証明書には出てきません。古いお家では意外と多いケースです。
検索は「請求書に書いた氏名・住所」と「登記記録上の氏名・住所」が一致しているかどうかで行われます。引っ越しや結婚で、登記が昔の住所・旧姓のままになっている不動産を探したいときは、住民票の除票や戸籍の附票などで「過去にその住所・氏名だったこと」を証明したうえで、検索条件に加える必要があります。
②のように過去の住所や旧姓を追加していくと、そのたびに1件ぶんの手数料が加わります。あれもこれもと条件を足すと、費用がふくらんでいく点にご注意ください。
検索の結果、該当する不動産が見つからなくても、「ありません」という証明書が交付され、手数料はかかります(返金はありません)。当てずっぽうで条件を変えて何度も請求すると、費用だけがかさんでしまいます。このほか、同姓同名の別人の不動産が混ざることや、コンピュータ化されていない古い登記簿は対象外になることもあります。

つまりこの制度は「全部お任せの魔法の杖」ではなく、性能のよい金属探知機のようなもの。従来の名寄帳や固定資産税の通知書とあわせて使うと、見落としがぐっと減ります。「どの条件で、何を、いくつ請求すればよいか」を見立てるところが、専門家の腕の見せどころなのですよ。
相続・遺言書づくりにどう役立つのか
この制度がいちばん力を発揮するのは、やはり相続の財産調査と生前の準備の場面です。
相続のとき
亡くなった方名義の不動産を一覧で確認できるので、「知らない土地を相続していた」「登記を忘れていた」という事態を防ぎやすくなります。2024年(令和6年)4月から相続登記が義務化され、不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象になり得ます。早めに全体像をつかんでおくことが、この義務を果たす第一歩になります。
遺言書をつくるとき
ご自身の不動産を整理しておきたい方にも役立ちます。「忘れていた不動産」が見つかることもありますし、遺言書に書く財産の一覧を正確に作る基礎資料としても心強い存在です。遺言書での不動産の書き方とあわせて確認しておくと、より確実です。
あわせて知っておきたい 2026年4月からの変更登記の義務化
もう一つ、大切なお知らせです。2026年(令和8年)4月1日からは、住所や氏名を変えたときの変更登記も義務になります。変更があった日から2年以内に登記が必要で、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象になり得ます(施行日より前に住所などを変更していた場合は、2028年〔令和10年〕3月31日までに手続きが必要です)。
これに合わせて、あらかじめ生年月日などを法務局に届けておくと、引っ越しのたびに自分で申請しなくても登記官が職権で住所変更をしてくれる「スマート変更登記」も始まります。登記の住所を最新に保っておくことは、先ほどの②「一致していないと出てこない」問題への、いちばんの備えにもなります。
まとめ 今できること
最後に、大事なところをまとめます。
● 2026年2月2日から、全国の不動産を1通で証明できる制度が始まりました。
● 使えるのは本人・相続人など・代理人に限られます。
● 手数料は検索条件1件・1通ごと(書面1,600円ほか)。条件を増やすと増えます。
● 未登記建物・住所や氏名の不一致は出てこないなど限界があり、名寄帳との併用が確実です。
● 相続登記(3年以内)・住所等変更登記(2年以内)の義務化とあわせて、早めの見直しがおすすめです。
「自分の場合は何から手をつければよいのか」「どの条件で請求すれば見落としがないのか」——制度はできても、いざご自分の状況に当てはめると、迷うところがたくさん出てきます。そんなときこそ、遠慮なくご相談ください。ご家族の大切な財産を、余計な費用や手間をかけずに整理するお手伝いをいたします。
※ この記事は2026年時点の公表情報(法務省・政府広報オンライン等)をもとに、わかりやすさを優先してまとめたものです。実際の請求の要件や手数料は変更されることがありますので、詳しくは法務省の案内もあわせてご確認ください。

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