自筆の遺言書の書き方と、法務局への預け方

山内扶美子
監修者 山内扶美子

遺言書には、ご自分で書いて自宅で保管する方法と、ご自分で書いて法務局に預ける方法があります。この記事は、後者――法務局に預ける方法(保管制度)のご案内です。確実に保管して紛失や改ざんを防ぎたい方、残されたご家族の手間を減らしたい方に向いています。

公証役場も法務局も遠い方、あるいは今すぐ書いておきたい方は、まず自宅で保管する方法もあります。その場合は、別の記事「自筆の遺言書を自宅で保管する場合の書き方と注意点」をご覧ください。

「自分で書いた遺言書を、法務局に預けられると聞きました。簡単で、費用も安いそうですね。実際には、どう書いて、どう預ければよいのでしょうか。」

最近、こうしたご相談をよくいただきます。たしかに、ご自分で書いた遺言を法務局が預かってくれるこの制度(自筆証書遺言書保管制度)は、手数料が一通3,900円と手軽な、よい仕組みです。

この記事では、その具体的な「書き方」と「預け方」を、順を追ってご説明します。そのうえで最後に、ご家族の状況によっては気をつけていただきたいことを、司法書士の立場からお伝えします。

まず、どんな紙に、何で書くか

用紙はA4サイズ。筆記具は、ボールペンや万年筆など、消えないものを使ってください。

ここで一つ、本当に気をつけていただきたいことがあります。鉛筆や、こすると消えるボールペンは使わないでください。最近広く使われている、摩擦の熱で消えるタイプのボールペン。あれでうっかり書いて預けてしまうと、保管されている間の熱などで、文字が本当に消えてしまうことがあります。せっかくの遺言が白い紙になってしまわないよう、お手元の一本が消えるタイプかどうか、書く前に必ず確かめてください。

自分の手で書く部分

自筆証書遺言の土台は、本文・日付・氏名・押印の四つです。

誰に、何を、どう遺すかという本文、それに日付とお名前は、すべてご自分の手で書きます。そして最後に印鑑を押します。

間違えやすい点が二つあります。一つは日付で、「令和七年六月吉日」のような書き方は認められません。何年何月何日まで、はっきり書いてください。もう一つは印鑑で、認印でかまいませんが、インクが内蔵されたスタンプ印(いわゆるシヤチハタ)は避けてください。

本文には、何を書くか

「すべての財産を一人に遺したい」という場合、本文はとても短くて済みます。たとえば「長女 ○○○○ に、全ての財産を相続させる。」と書けば、それで十分に伝わります。相続人をより確実に特定するために、お名前に加えて生年月日と続柄(「長女」など)を書いておくと万全ですが、お名前さえ間違えなければ、氏名だけでも問題ありません。

そして大切な点を一つ。「全部を一人に」という場合は、財産の一覧表(財産目録)は必要ありません。通帳のコピーも不動産の書類も用意せず、本文に「全ての財産を」と書けば、それで足ります。

本文の文例と余白の見本

財産を分けて遺したいときは ― 財産目録の作り方

一方で、「この不動産は長男に、この預金は長女に」というように、財産ごとに渡す相手を分けたい場合は、それぞれの財産がどれを指すのか、はっきり特定できるように書く必要があります。そのときに役立つのが財産目録です。

財産目録は、手書きでなくてかまいません。パソコンで作っても、通帳や不動産の書類のコピーを添えてもよいことになっています。ただし、財産目録のすべてのページに、ご自分で署名し、押印してください。両面に記載があるときは、両面とも必要です。一か所でも抜けると無効になりますので、ここはご注意ください。なお、財産目録は、本文とは別の用紙に作ります。

パソコンで作った財産目録の例

預貯金の書き方

いちばん簡単なのは、通帳のコピーです。通帳の表紙をめくった最初の見開きのページをコピーしてください。そこに、金融機関名・支店名・預金の種類・口座番号・名義人が載っています。残高や入出金明細のページは必要ありません。

コピーを使わず一覧表に書く場合は、金融機関名、支店名、預金の種類(普通預金か定期預金か)、口座番号を記載します。

通帳の写しの例

不動産の書き方

不動産は、いちばん間違えやすいところです。

大切なのは、ふだんお使いの「住所」では不動産を特定できないということ。郵便物が届く住所と、登記の上での表し方は別ものです。登記では、土地は「地番」、建物は「家屋番号」という番号で管理されています。

確実なのは、法務局でとれる登記事項証明書(昔でいう登記簿謄本)をコピーして添える方法です。地番や家屋番号は、この証明書のほか、毎年届く固定資産税の通知書でも確認できます。

ここで、実務上のコツを一つ。登記事項証明書は、それ自体がA4サイズです。そのままコピーすると、余白も署名を書く場所も取れません。ですから、少し縮小してコピーし、四方に余白と、署名・押印を書くスペースを作ってください。また、土地と建物は別々の証明書ですから、写しもそれぞれ別のページになります。各ページに、署名・押印と通しのページ番号を忘れずに付けてください。

不動産(建物)の写しの例

どこに、どう預けるか

預け先は、ご自分の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局です。

まず電話かインターネットで予約をとり、当日はご本人が直接出向きます。代理人や郵送ではできません。持ち物は、書いた遺言書、申請書、本籍の記載がある住民票、顔写真付きの本人確認書類、そして手数料3,900円です。これで預かってもらえ、「保管証」という控えを受け取ります。

なお、法務局が確認してくれるのは「書式が整っているか」だけです。中身がご希望どおりに実現するかどうかまでは、見てくれません。

その前に ― 残されたご家族のことを考える

ここまでが、書き方と預け方です。手続き自体は、それほど難しくありません。けれども、遺言で本当に大切なのは、亡くなったあと、残されたご家族がスムーズに使えるかどうかです。

たとえば、相続人の中に長く音信不通の方がいるご家族を考えてみます。何十年も別居したままの配偶者がいて、お子さんは娘さんがお一人。財産はすべて娘さんに遺したい、というような場合です。

法務局に預けた自筆の遺言は、そのままでは銀行や登記の手続きに使えません。まず、法務局から「遺言書情報証明書」という書類を出してもらう必要があります。そのために、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍と、相続人全員の住民票(娘さんご自身と、別居している配偶者の分も)をそろえることになります。

ご夫婦の戸籍は同じですから、戸籍を集めること自体は大きな負担ではありません。ただ、長く別居している配偶者の「今の住所」は、すぐにはわからないことが多いものです。本籍から戸籍の附票をたどって現住所を調べる――この住所を追うひと手間が、思いのほか時間と気疲れになります。

司法書士としての考え

こうしたご家族には、私は公正証書遺言をおすすめすることが多いです。

公正証書遺言なら、費用は数万円かかりますが、亡くなったあと、娘さんは少ない書類で、お一人で、早く手続きを終えられます。相続人全員の住民票をそろえる必要がないので、別居している配偶者の住所を調べて回ることもありません。

「簡単で費用も安いから自筆で」というお気持ちは、よくわかります。けれども、残されたご家族の手間まで考えると、公正証書のほうがやさしい――そういうことが、実は少なくありません。

書き直すときは ― 新しい日付のものが優先されます

遺言は、いつでも書き直せます。そして大切なのは、自筆でも、法務局保管でも、公正証書でも、いちばん新しい日付の遺言が優先されるということです。

ですから、いったん書いたあとで気持ちが変わったり、内容を改めたりしたときは、新しく作り直してください。そのとき、古い遺言が手元や法務局に残っていると、ご家族が「どちらが本当の遺言か」と迷う原因になります。新しい遺言に「以前の遺言は撤回する」と書き添えるか、古いものはきちんと処分しておくと安心です(法務局に預けたものは、撤回・返還の手続きをとります)。日付を正確に書いていただきたいのも、どれが最新かをはっきりさせるためです。

いちばん安心なのは、公正証書遺言です

最後に、お伝えしておきたいことがあります。手間と費用を惜しまないのであれば、もっとも安心で確実なのは、公正証書遺言です。

公証人が内容を確認しながら作るため形式の不備で無効になりにくく、原本は公証役場で保管されるので紛失や改ざんの心配もありません。亡くなったあとの検認も不要で、受け継ぐご家族の手続きもいちばんスムーズです。「確実に、家族に負担をかけずに遺したい」という方には、公正証書遺言をおすすめします。

書き方に不安があれば ― 無料添削をご利用ください

最後に、大切なことをお伝えします。自筆証書遺言は、自宅で保管する場合はもちろん、法務局に預ける場合であっても、その内容が法律上有効かどうかまでは、どこでも確認してもらえません。法務局が確認してくれるのは書式だけで、「書いた内容が本当にご希望どおりに実現するか」は、ご自分で気をつけるほかないのです。

そこで、「この書き方で大丈夫だろうか」と不安な方のために、当事務所では遺言書の無料添削を行っています。ご自分で書いてはみたものの自信がない、という方は、どうぞお気軽にご利用ください。

お申し込み・ご相談は、当事務所のお問い合わせフォームから承っています。

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おわりに

この記事でお話ししたのは、あくまで一般的な仕組みです。ご家族の状況によって、いちばんよい方法は変わります。「うちの場合はどうだろう」と思われたら、どうぞお気軽にご相談ください。


翔栄法務司法書士事務所(東京都世田谷区)

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。実際の手続きにあたっては、最新の取扱いをご確認のうえ、専門家にご相談ください。


山内扶美子

執筆者
山内扶美子 / 司法書士

37年の実績と経験であなたを扶(たす)けます。
得意なことは、『相続のご相談』『成年後見』『会社設立登記』です。翔栄法務司法書士事務所は、下北沢、代々木上原、笹塚、世田谷区、渋谷区の相続・成年後見・会社設立のサポートを中心に活動してまいりました。いまでは、全国対応のオンライン相談も積極的に受けております。

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